この記事ではテキーラの製法、製法の違いによって生まれる味わいへの変化をご紹介します。
テキーラの作り方概略
テキーラを作る際、大きくは以下の流れで作られております。
- 栽培:原料となるアガベを栽培
- 収穫:アガベの葉を落として、茎だけにしてピニャという状態にする
- 糖化:ピニャを釜に入れて、加熱して糖化
- 圧搾:加熱されたピニャから糖分を抽出
- 発酵:糖化したものを圧搾しジュースにして、発酵させアルコールにする
- 蒸留:低濃度のアルコールを2回以上蒸留しテキーラとなる
- 熟成:ブランコ以外の銘柄は樽で熟成
以下では、それぞれのステップを細かく紹介してまいります。
テキーラの第一歩である、アガベの栽培
テキーラの原料はアガベという植物になります。
アガベの中でもブルーアガベ(現地だとアガベアスル)という品種を最低でも51%は原料としなければならないことが、メキシコの国家規格であるNOMというもので定められております。
アガベは他のお酒の原料(麦、ぶどう、穀物等)とは違い、一年では収穫ができません。
最低でも5年、平均6-7年ほど、成長させて初めて収穫となります。(2023年現在、アガベ価格高騰で5年程度のアガベが主流になってきている)
生育中はそこまで手のかからない作物ですが、花茎がでそうになると摘芯、また除草などが作業としてはあります。
アガベは株分けで増やすのですが、下の写真にあるような子株が親株のアガベの近くから出てくるのでこれを抜いて、増やします。
アガベは農作物ですので、生育する場所によって大きく味わいが変わります。
ハリスコ州のなかでも大きく2つの産地があり、高地のロスアルトスのほうがクリーミーな甘さ、テキーラ村があるバジェス地方の方がスッキリとした甘さになります。あくまでも傾向ですが、テキーラをいくつか飲み始めるとどちらかというと好きなエリアなどが出てくると思います。
アガベの収穫
十分に生育したアガベはヒマドール(jimador)と呼ばれる専門の職人によって、収穫が行われます。この時の生育状況やカット方法によって味わいに変化があるため、重要な工程です。
ここで大きく味に変化する要素としては、2点あります。
まずアガベが生育すればするほど、甘味が強まる傾向にあります。
次に葉を落とす際に、中心部分に近いところでカットして、緑色の表皮が少ないと辛味が抑えられ、表皮が多いほど、辛味が強くなる傾向にあります。これは辛味成分が皮に含まれているためです。皮が少なければ素晴らしいかというと、各ブランドの出したい味わいによって皮の残すレベル化変えています。
カットされたアガベはピニャと呼ばれます。
(ピニャとはパイナップルのこと。見た目がパイナップルのようですよね。)
ピニャの中にコゴージョと呼ばれる芯があり、このコゴージョは苦味が強いので、苦味を抑えたいブランドはカットします。
ピニャの加熱・糖化
収穫されたピニャは蒸留所に運ばれて、蒸気で加熱されます。
アガベはイヌリンという多糖類でできているのですが、そのままでは発酵に使用できないので、加熱して単糖類に変化させます。イメージとしては、生のサツマイモは甘くないですが、石焼き芋にすることで、甘くなる原理と同じだと思ってください。
加熱する際は「マンポステリア(石やレンガ造りの釜)*」か「圧力釜(アウトクラベ)」にて加熱されます。
*Horno de manposteria、日本ではマンポステラとも呼ばれる
マンポステリアだと40時間、アウトクラベだと6時間くらいからで加熱が完了します。
マンポステリアによるものだと、香ばしい甘いアガベの香りがでます。逆にアウトクラベだと、青っぽく若々しい香りになると言われております。最近ではアウトクラベでも通常長時間
蒸留所によっては、ディフューザーという機械で加熱せずに糖分だけ取り出す手法もありますが、テキーラ好きからは好まれない傾向にあります。
ピニャを搾汁
糖化したピニャからジュースを取り出します。
取り出す方法は主に2つの方法があり、一つは昔ながらのタオナと呼ばれる石臼で、すり潰してジュースを取り出す方法。もう一つはローラーミルという手法で、温水を流しながら、ローラーで潰して、ジュースを取り出しています。
ローラーミルはアガベに含まれる糖分の9割近く搾汁できます。ただ繊維を潰しすぎて、繊維の味が出すぎるというデメリットもあります。
一方のタオナは5割程度しか糖分を取れないです。メリットとしては繊維を潰しすぎないことで、繊維の奥にある雑味が出づらいことだと言われております。
タオナの方が時間と手間がかかるため、あまり使われていませんでしたが、ここ最近タオナが再度少しずつですが、増えてきております。(以前は5箇所程度だったものが、現在は10箇所以上に増加)
アルコールへ発酵
搾汁したジュースを発酵させてアルコール化させます。発酵時の酵母の種類はテキーラの味わいを決める重要な要素で、各社発酵の工程はこだわります。
自社で培養している酵母を使ったり、蒸留所に浮遊している酵母を活用して発酵、シャンパーニュで使用されている酵母を使用したりなど、独特な発酵方法を選んでいるところもあります。
また発酵の際のタンクに使うのも、金属製・セメント製・昔ながらの木桶を使うところがあります。セメント製は珍しく、日本人テキレロの景田さんが働くカスカウィンのほか2箇所にしかありません。
景田さんに伺ったそれぞれの特徴は、以下です。
- 金属製:メンテナンスは簡単、味は単調
- セメント:メンテナンスは比較的簡単、味が複雑になる
- 木桶:メンテナンスが大変(洗うの大変、乾きすぎると木がズレるなど)、味は複雑性をます
また前の工程で搾汁した後の繊維(バガス)を上に敷き詰めて発酵するのを、バガス発酵と呼びます。繊維に残った糖分を使いたいということもあるらしく、タオナで搾汁したあとのバガスを使うことが多いです。ただローラーミルで搾汁後のバガスでも使えます。ローラーミルで搾汁した場合の繊維を使うことは保温(温度変化を抑える)などが目的になるそうです。
テキーラをいよいよ蒸留
銅やステンレス製の蒸留機などで蒸留していきます。
テキーラ好きに好まれる蒸留器は一般的には銅製の単式蒸留機です。理由としては硫黄酸化物が吸着することが言われます。ただメンテナンスなどの難しさからステンレス製の蒸留器に銅製コイルをつけるパターンなどもあります。また蒸留器のサイズや形に寄って味わいが異なります。
多くの蒸留所では単式蒸留を二回行いますが、最近では連式蒸留を用いたり、単式でも3-4回行う蒸留所も出て生きているようです。
(有名な蒸留所ですと、カサノブレやオレンダインは3回蒸留をおこなっております)
また蒸留をして一番はじめに出てくる液と最後に出る液をヘッドとテールというのですが、一般的にこれらは廃棄します。
理由はメチルアルコールが多く含まれていたり、不純物が多くて味わいを損ねるのです。蒸留所によっては20%ずつ捨てるところもあったりします。
ウィスキーの単式蒸留に比べるとスラッとした単式蒸留器を使うことが多く、良い香りが抽出されやすくなるそうです。
また出てきた液をフィルタリングしますが、紙のフィルターを使うこともあれば、冷却フィルターを使うケースもあります。回数を経るほどスッキリとしますが、粘度が落ちるため2〜4回程度が一般的です。銘柄によってはフィルタリングせず、風味を残そうとする銘柄もあります。
冷却フィルターのほうが香りが落ちてしまうと言われています。景田さんが働くカスカウィンだとメキシコ向けと日本向けは冷却フィルターを使わないと行ったこだわりがあります。ただ冷却フィルターをかけないと、温度変化などで沈殿物がでたりします。
テキーラの熟成
熟成はオーク樽によって行われます。
一般的にはアメリカンオークの新樽やバーボンの中古樽が多いです。他にも、フレンチオークの新樽、ワインやシェリー、コニャックの中古樽なども使われます。サイズはバーボン樽だと180リットルが一般的です。
また樽は新樽でも中古樽でもチャー(火入れ)と言って、液に触れる面を焦がします。この焦がし方によって出る色や風味に変化がします。
また熟成の期間によって、以下の5種類に分けられます。
クラス名 | 熟成期間 | 樽容量 |
ブランコ(Blanco)/プラタ(Plata)/シルバー(Silver) | 2ヶ月未満 | ー |
ホーベン(Joven)/オロ(Oro)/ゴールド(Gold) | ブランコにレポサド以上をブレンド、もしくはブランコに着色したもの | ー |
レポサド(Reposado) | 2ヶ月以上 | 特になし |
アネホ(Añejo) | 1年以上 | 600リットル以下 |
エクストラアネホ(Extra Añejo) | 3年以上 | 600リットル以下 |
よくブランコは熟成をしないことが定義だと思われがちですが、2ヶ月以下であれば熟成はできるため、誤解しないようにしてください。例えば、エラドゥーラのプラタ(ブランコ)は45日間熟成していて若干通常のブランコよりも色があるように見えます。またアハトロディーバはワイン樽に2ヶ月未満熟成させるため、ブランコの位置づけですが赤色がしっかりと出ています。
添加物をテキーラに加える
テキーラではAGAVE100%でも香料、糖分など法令で定められたものは添加することができます。日本に入ってきているブランドでは多くの銘柄が添加物を使っています。添加物の詳細と無添加テキーラは以下からご覧ください。
テキーラの作り方で変わる味わい復習
以上がテキーラの製法でした。以下ではテキーラの味わいが変わるポイントを纏めていきます。
- アガベの生育
- 生育年数による違い
→長く育てたほうが、甘さが強くなりクリーミー - アガベを育てる地域や畑、気候
→土地ごとの特色の出た味わいになる
- 生育年数による違い
- アガベの収穫
- ピニャのカット方法
→皮が多いほうが辛い - コゴージョを除去するかどうか
→除去したほうが苦味が少ない
- ピニャのカット方法
- 加熱・糖化方法
- マンポステラ(石/レンガの釜)で温める
→香ばしいアガベの味わい - アウトクラベ(圧力釜)で高い圧力で温める
→スッキリとした味わい - アウトクラベ(圧力釜)で低い圧力で温める
→スッキリとした味わい
- マンポステラ(石/レンガの釜)で温める
- 搾汁方法
- タオナ(石臼)で搾汁を行う
- ローラーミルで搾汁を行う
- 発酵の方法
- 酵母菌の使い方(空気中に漂う自然発酵、自分の蒸留所だけの専用培養酵母、その他シャンパーニュ酵母など培養した酵母)
- 発酵槽を何を使うか(ステンレス、木製、コンクリート製)
- アガベの繊維を上にかける(バガス発酵)
- 蒸留
- 蒸留釜の形による差
- 蒸留回数・方法
- ヘッドとテールの除去割合
- フィルタリングの回数
- 熟成
- 熟成期間
- 樽の種類
- 樽の火入れ状況
- 添加物を加える
筆者おすすめのテキーラ
筆者のオススメ銘柄は無添加のものを中心に以下にまとめております。是非ご覧になってみてください。
当サイトのレビュー時の定性情報
当サイトでは銘柄をレビューした際は、可能な限り以下のように定性情報を入れるようにしております。そこから製法の変化を感じ取っていただけると幸いです。
内容はテキーラマッチメーカーの情報を基本としつつ、現地のブランドサイトなどを確認しておりますので、ぜひ見てみてください。
NOM:
蒸留所:
エリア
蒸留所:ハリスコ州 地方
アガベ産地:ハリスコ州 地方
加熱方法:
搾汁方法
加水:
発酵槽:
蒸留回数:回
蒸留器:
熟成樽:
熟成期間:
度数:
相場:
おすすめ度:
(上記はTequila match makerと製造元HPなどを参考にして作成)
以下では当サイトのおすすめ記事を紹介しております。
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著者情報
- 著者名:テキーラダディ
- 本業:非アルコールの食品系業界のマーケティング部門
- 資格:日本テキーラ協会認定テキーラマエストロ(100期代)
- テキーラ関連の経歴:2009年に北海道にあるバーで本格的なテキーラに出会い目覚める。2023年にはハリスコ州内の蒸留所見学を果たす。テキーラ以外にもスコットランドのアイラ島など各地の蒸留所、国内のウィスキー蒸留所、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュ、国内の酒蔵、ブリュワリー、ワイナリーなど全世界のアルコール製造現場を巡る。
Twitterはおすすめ銘柄などを発信
筆者のインスタでは蒸留所の美しい風景などをアップしています。ぜひフォローしてください!
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