テキーラの味を決める重要な制作方法の一つである糖化、醸造の方法について紹介します。
テキーラの糖化方法
アガベの収穫
テキーラはご存知の通りアガベを原料にして作られます。
アガベが一定程度(最低5年)まで成長したら、葉を取り、茎の部分だけにされて収穫されます。
収穫されたものはピニャと呼ばれます。
加熱する理由は、イヌリンを糖化
テキーラの収穫されて、ピニャの状態になったものは蒸留所に急いで持ち込まれます。
急いで持ち込まれる理由は、ピニャのカットした面から酸化が始まってしまい、風味とアルコールの質に悪影響を与えるためです。
持ち込まれたピニャは加熱され、イヌリンと呼ばれる多糖類(デンプンなどと同じ)を加熱によって分解していきます。
日本人に一番イメージしやすいのは、生で食べると甘くないサツマイモが、石焼き芋にすると、甘さが増していくのと同じと思っていただければ良いかと思います。
加熱の方法は主に4分類あります。
テキーラを糖化する方法は主に、アウトクラベとマンポステラ
アウトクラベ(オートクレイブ)による加熱
一つはアウトクラベ(英: autoclave)と呼ばれる圧力釜で加圧した状態で加熱する方法です。
この方法だと伝統的な下に記載したマンポステラと比べると短時間で加熱が完了します。高圧で加熱した場合は加熱時間8時間程度で完了します。
味わいの特徴としては、青っぽいフレッシュなアガベのニュアンスが残ります。
またアウトクラベでも釜の中にかかる圧力を低めにして、作るテキーラも最近は増えてきており、Calle23(カジェ・ヴェインティトレス)やESPOLON(エスポロン)、ドンフラノは低圧でアウトクラベを使用しています。ドンフラノでは3日間も加熱するそうです。高圧の8時間に比べると9倍と大変長い時間かけます。
低圧にしたほうが、味わいはマンポステラのような香ばしさを持ち、メンテナンスが簡便で衛生的、また思い通りの味にしやすいそうです。
レンガ/石製オーブン(マンポステラ)での加熱
もう一つよく使われる手法が、石やレンガ製のオーブン、マンポステリア(スペイン語:horno de mamposteria)を使用して温める手段です。
以前に比べるとアウトクラベを使う蒸留所が増えておりますが、まだまだマンポステラを使う蒸留所もあります。
ただ40時間以上時間がかかるため、アウトクラベに比べると効率的ではないです。
味わいの特徴としては、周りがそれなりに焦げるため、カラメルのようなニュアンスが加わります。
テキーラ好きに好まれるブランドは結構この方法が多く、ドン・フリオ、パトロン、エラドゥーラなんかもこの方法を使っています。
また一つの蒸留所でブランドによって、アウトクラベとマンポステラを使い分ける所も多いです。
日本ではマンポステラと呼ばれることが多いですが、正式には”horno de mamposteria”です。hornoが”オーブン”、deは”〜の”、mamposteriaが”組積造”という意味のようです。組積造とは石やレンガなどを積んでいく工法のことだそうです。
日本のテキーラ愛好家ではマンポステラで通じますが、英語圏のサイト派でhornoかstone ovenとなっており、通じない・検索しづらいので、テキーラのことを色々調べたい方は気にしてみてください。
その他の手段
また現在テキーラでは、ほぼ使われていませんが、Horno de piedra(日本ではタテマドとも呼ばれる)という手段も一部の蒸留所では使われています。
地面に掘った穴の上に薪を置き、薪を燃やし、その上にピニャを置いて加熱します。
ピニャに焚き火のスモーキーさが移り、独特な風味になります。
日本に2021年時点では、カスカウィンのアニベルサリオという限定ボトルがこの作り方になります。
メスカルでは一般的な方法です。
テキーラの圧搾の方法
次に圧搾の方法ですが、一般的にはローラーミルとタオナ、一部大規模施設では徐々にディフューザーが増えてきていると覚えてください。
ローラーミル
ローラーミルはシュレッダーのような機械で、細かく切り裂いて、水に混ぜた上で圧搾します。
繊維ごと切り取るため繊維の風味を出ます。
大半の蒸留所はこの方法をとっていると思って間違いないです。
タオナ
タオナは昔ながらの石臼でピニャを潰して、ジュースを絞り出します。
タオナのメリットは必要以上に繊維を切らないため、雑味がまじりづらいです。
一方タオナは人力で加熱したピニャを配置しなければならない、時間がかかり、効率がだいぶ悪いです。
またタオナで圧搾した場合、きれいに繊維が残るため、その繊維を醸造の工程で一緒に醸造槽に入れる蒸留所もあります。
数は少ないですが、バガス香と呼ばれる独特な香りがして、テキーラ好きに好まれます。
(このとき出る繊維がバガスと言います)
タオナで有名な銘柄は、パトロンやカスカウィンのタオナです。
パトロンは半分タオナ、半分ローラーミルで行うことで、味わいのバランスをとっています。
一応、上記2手段以外にディフーザーとフランケンシュタインという手法があります。
フランケンシュタインはタオナに変わる手法としてこれから導入が期待される手法ですがまだまだメジャーな手法ではないです。
ディフューザー
最近、大手ブランドで徐々に増えてきている手法がディフューザーです。
ピニャをカットして加熱せずに、繊維に含まれるイヌリンを温水で溶かして、溶かした液体をアウトクラベで加熱して糖化させるという手法です。
アガベの多糖類のうち95%まで抽出できるとも言われ(ほかは良くても80%とか)、ほぼオートメーション化できるため人も少なくてよいという手法です。
アガベ高騰の時代には糖分を限界まで取れる、働いている人の身体的負担が減るというメリットは有ります。一方、本来の味わいではない、雇用が失われるといった批判も一方ではあります。
賛否が分かれる製造方法ですが、味わいとしては物足りなさを感じる事が多いです。
(カサドレスなんかは味わいが物足りないなぁと思って調べるとディフューザー製造だったといった経験もあります。)
テキーラの発酵方法
醸造の方法ですが、圧搾でとったシロップに加水して、酵母を加えて発酵します。
加水する理由
せっかく抽出した液体をなぜこのタイミングで加水するかというと、糖度が高すぎて発行しないからです。
圧搾で抽出した液体はモストと呼ばれますがBrixという糖度を測る値が70程度あります。
Brixが10程度でないと糖度が高すぎて、酵母菌が活動できず醸造が進まないのです。
(蜂蜜が腐らないのと同じ理由ですね)
(モストとアガベシロップはほぼ同じ工程で作られるらしいです)
テキーラに使う酵母(ザイモモナスと独自の酵母)
発酵する際に使われる酵母は主に、ザイモモナス菌と呼ばれる自然由来のものと、各蒸留所が伝統的に持っている酵母菌です。
この過程でどの酵母を使うかで、テキーラの味わいが変わるため、各社こだわっている部分です。
自然発酵(ザイモモナス菌)
ザイモモナス菌は原料であるアガベ・アスールの表面にもともといる菌になります。
この菌を活用して、発酵槽で自然に発行させるのが、自然発酵と呼ばれています。
花のような香り、バターのような濃厚な香りが生まれます。
ただし発酵に時間がかかり72時間程度かかると言われます。
有名なブランドだとエラドゥーラはこの工程でテキーラを作ります。
酵母を加えた発酵
大半の蒸留所は自社独自の培養酵母を持っております。
アガベ由来のものから、ワインで用いられる酵母と言ったものまで多岐にわたります。
クエルボ家には伝統的に受け継がれている秘伝の酵母があり、独特ななめし革のようなニュアンスが出るそうです。
発酵槽(タンク)
他にも発酵の際に重要になるのは、発酵槽を何でやるかも重要になります。
一般的には、ステンレスのタンク、木製のタンク、コンクリートのタンクがあります。
ステンレスは清掃や衛生上のメリット、木製のタンクは松材なんかだと酵母も住み着いていたりと独特な風味が出ることもあり、使われています。
発酵槽に圧搾のタオナの項で説明したバガスと呼ばれる繊維を一緒に入れることもあります。
独特な製法をしている銘柄紹介
タオナを使ったカスカウィンのタオナ
日本人の景田さんというテキレロ(テキーラ職人)が働いていることでも有名なカスカウィンのタオナ。
Tequila Matchmakerで驚異の91点/89点というハイスコアです。
ワタシ的定番アウトクラベのエスポロン・レポサド
お気に入りなので、何度も紹介しちゃっています。。。
自然発酵のエラドゥーラ
自然発酵という手間がかかる手法を使っています。
テキーラのその他基礎知識
いかがでしたでしょうか、テキーラの基礎知識、豆知識はいかに色々と紹介しております。
ぜひともご覧になってください。
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著者情報
- 著者名:テキーラダディ
- 本業:非アルコールの食品系業界のマーケティング部門
- 資格:日本テキーラ協会認定テキーラマエストロ(100期代)
- テキーラ関連の経歴:2009年に北海道にあるバーで本格的なテキーラに出会い目覚める。2023年にはハリスコ州内の蒸留所見学を果たす。テキーラ以外にもスコットランドのアイラ島など各地の蒸留所、国内のウィスキー蒸留所、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュ、国内の酒蔵、ブリュワリー、ワイナリーなど全世界のアルコール製造現場を巡る。
Twitterはおすすめ銘柄などを発信
筆者のインスタでは蒸留所の美しい風景などをアップしています。ぜひフォローしてください!
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