今回はテキーラの中でも、あまり公に語られることが少ないテキーラの添加物という禁断の内容について紹介してまいります。
テキーラの添加物序論
この記事を読み始めた方の多くは、テキーラに添加物?と驚いた方も多いのではないでしょうか。ただ日本で2020年に売れたテキーラのTOP10のうち、Tequila Match MakerのAdditive-Free認証(後述)を受けている銘柄は1銘柄しかありません。裏を返せば、TOP10のうち9銘柄は添加物を使用している可能性が高いということです。(Top10の銘柄はテキーラジャーナルより確認)
でも自分が飲んでいるテキーラはAgave 100%と書いてあるし、きっと添加物入っていないよ!と思った方、残念ながら間違いです。メキシコの規定で一定量までは添加物をAgave 100%でも入れることができることが決まっているのです。

テキーラの添加物に関する規定について
テキーラはご存じの方も多いと思いますが、原産地呼称(Geographical Indications)を取り入れています。この原産地呼称でテキーラと名乗るためには、”NOM-006-SCFI-2012”というメキシコの公式規格に準拠して作る必要があります。”NOM-006-SCFI-2012”にはいくつかの項目があり、製造可能な場所・原料などのほかに、添加物に関する規定もあるのです。
添加物については主に2つの項番で記述があります(筆者和訳・意訳)
4.1 Mellowing
Mellowingとは滑らかにするといった意味です。以下のものを入れて、風味を柔らかくして良いと記載があります。またこれらは1%以下にする必要があります。
- カラメル色素
- 天然オークやオークエキス
- グリセリン
- 砂糖ベースのシロップ

6.1.1.1
色、香り、または風味を付けたり強化するために、メキシコ保健省が許可する甘味料、着色料、食品添加物(味・香り)を入れることができ、その量はNMX-V-006-NORMEXに従って総還元糖は1Lあたり75gまで入れることができ、乾燥抽出物はNMX-V-017-NORMEXに従って1Lあたり85gまでが上限値である。

他にもテキーラの添加物に関する記述はあるのですが、主に6.1.1.1が記載されているため、ここで取り上げ、その他項目ならびに誤解については本稿の最後に記述します。
テキーラへ添加物は何を入れているか
4.1だけでなく6.1.1.1があることで、テキーラはおおよそなんでも入れれるようになります。では具体的には何が入っているか掘り下げていきたいと思います。
まず前述の記述を統合すると、テキーラの添加物には甘味料、着色料、グリセリン、香料がそれぞれ入っています。
甘味料は例えばサトウキビ由来の砂糖、アガベシロップなどが該当します。他には人工甘味料も入れることが可能です。当然この効果としては、甘さを強化して、飲みやすくします。
次に着色料は主に、ロット毎(生産タイミング)の色の違いを抑えたり、熟成感があるように見せるために使用されます。この手法は比較的他の蒸留酒でも認められており、例えば比較的厳しい法律があるスコットランドのウィスキー向けの法律でも使用することができます。天然の木材の樽を使用するため、ロット毎の色の違いは結構あるため、差異を減らすために使用します。
以下の写真はTasteTequilaが実験でおこなった、ブランコのテキーラに爪楊枝の先程だけ着色料を加えたものです。1%も行かないような量でもこれだけ色がつくようです。

味を変えるとして有名な物はグリセリンです。グリセリンは刺激ある味わいをまろやかにして、飲みやすくする効果があります。
次に香料は様々な物があると言われております。例えばアガベ風な味わいを付けたり、アネホのような樽感を感じさせることができたりすることもあります。
テキーラで多く使用されるアメリカンホワイトオークの樽はバニラのような香りをテキーラにつけることができますが、無添加のブランコ・テキーラからはバニラの香りがすることないと思われます。ただ世の中にはブランコでもバニラの香りがすることがあり、これは明らかに香料の仕様によるものだと思われます。
他にはケーキのような香りがするテキーラ、綿あめのような香りがするテキーラなどがあり、驚かせれます。
テキーラにおける添加物の功罪とは
では添加物が果たしているテキーラ業界の役割、逆にテキーラ業界にもたらしている悪影響について説明します。ちなみに添加物による健康被害も一般的には言われることも多いですが、筆者が強い興味が無いため、記載いたしません。
添加物の功
添加物の効果は前項で記載しましたが、主に2つあると考えております。一つは「味の標準化」、もう一つは「味を変化させること」です。
添加物における味わいの標準化
テキーラは農作物のアガベを原料とし、酵母という自然の作用によって作られるため、味が異なります。また熟成時には天然木を活用し、香りと色を付けるため、当然ながら作ったタイミング(ロット)ごとの出来上がりには差異が生まれます。
このロット毎の差異は、テキーラマニアからすると差異を個性として楽しめるポイントですが、テキーラを普段飲まない人からすると”この一本は美味しい/美味しくなくなった”と感じることもあります。おそらくバーテンダーからすると”提供するカクテルの味のブレる要素”とも言えるのです。
そのような背景から蒸留所はこのロット毎の違いをなくそうとするのです。味わいの標準化は安定的な供給に貢献しているとも言えるのです。
通常、蒸留ごとの差異を減らすために、複数の蒸留した液を混ぜ合わせて、一つのロットを作り上げます。この混ぜ合わせた液に更に添加物を加えることで味わいや色のブレを補正するのです。
蒸留ごとの液を混ぜることは当然無添加のテキーラでも行われます。
テキーラの低コスト生産
テキーラは原料のアガベの品質を落としたり、短時間で済むような製造工程にすることで、製造コストを落とすことができます。一方、香料や糖分などでアガベっぽい味わいを添加することができます。そのことから、低コストの製造方法で作ったテキーラに添加物を加えることで、テキーラっぽい味わいにすることができます。
そのことからテキーラの低コスト生産につなげることができるのです。例えば通常5年はアガベを育てないとテキーラの原料には向かないと言われておりますが、一部では低価格の3年程度のアガベを利用して、ディフューザーと呼ばれるテキーラマニアからは評価の低い製造方法で、作ったりするケースもあると聞きます。
添加物における味の変化
次に味の変化というのは、本来テキーラが持ち得ない味を加えるということです。前述したようなブランコなのにバニラの味わいがしたり、綿あめやケーキのような味がすることです。
テキーラはストレートで飲まれるシーンも多く、慣れない人だと大変強く、飲めないと感じがちです。このようなテキーラの印象からテキーラに手を伸ばさない消費者も多い状況を鑑みると、甘くて飲みやすい味変テキーラはエントリーのしやすい味わいになると言えます。その結果、テキーラを飲むそうの裾野を広げることに繋がっているのではないでしょうか。
以上がテキーラにおける添加物のポジティブな影響です。
添加物の罪
添加物のポジティブな業界・消費者への影響を紹介してまいりましたが、逆に負の側面もあるのです。この記事を読んでいる方には是非、功罪両面を理解した上で飲んでいただければとお思います。
テキーラの味わいがなにかわからなくなる
当然のことですがテキーラの味わいが変化することで、本来のテキーラの味わいを一度も味わわずに、テキーラが好きという消費者が出てくる可能性があります。テキーラからケーキのような味がしてくるようだと、テキーラ初心者はテキーラの味はケーキのような味であると勘違いする可能性があるのです。
そこまで極端なことはなくとも、もっとも巨大なテキーラ市場のアメリカで売れているテキーラは甘く、スムースな飲み口の銘柄が特に人気を得ています。そうすると、この加糖・甘い香料を入れたものがテキーラの標準であると認識されるようになると、無添加の分かりやすい香りがしない銘柄は市場から駆逐される可能性もあると思われます。
厳しい原産地呼称制度が形骸化
テキーラの一つの特徴として原産地呼称制度で守られている・規制されているということがあります。
原産地呼称は生産地域を限定しているだけでなく、生産方法を統一することで、一定程度の品質・味わいを担保しているのです。
そのためテキーラの規定ではテキーラに果汁を大量に混ぜた物はテキーラとは名乗れません。内容次第ではテキーラリキュールのような表記か、そもそもテキーラという表現すらできないのです。このような品質や味わいの一定の担保が、テキーラの個性を保っているのです。一方、現在は香料や甘味料の技術は向上し、少し入れただけでも全く異なる味わいにできるのです。
では果汁を入れたものがテキーラとは名乗れ無いのと同様に、すごく強力な香料を入れてテキーラが本来持ち得ない味わいを持ったものは、もはや同じように「テキーラ」では無いのでは無いかと筆者は感
じています。
決して私は香料を否定しているわけではなく、「せっかく原産地呼称制度で味わいのラインを決めて担保していたテキーラというものを、香料というもので範囲を過剰に広げることは正しいのか」という疑問を持っているのです。
これは香料を使用しているメーカーに責任があるというより、業界全体でルールづくりを行う必要があるのではないかと考えております。
消費者への誠実さ
この記事を読んだ多くの方はテキーラに香料が入っているものがあることは知っているかもしれません。一方、普段テキーラを常飲しない人がたまたまバーで”Agave100%と書いてあるテキーラ”を飲んだら、その方はアガベと水だけで作ったテキーラではないのかと思うのではないでしょうか。
テキーラのルールで定められた範囲のルールとはいえ、添加物を加えていることを記載しないのは個人的には誠実さにかけるのではないかと感じます。添加物が入っていることをあまり気にしない消費者だとしても、添加物が入っている商品かどうか告知されていない商品だとすると受け入れがたいのではないでしょうか。
ましてやテキーラはAgave 100%というカテゴリーがあり、添加物が入っていない商品が全てであると誤認されやすい商品である以上、過剰にそこを気遣うべきなのではないかと個人的には思います。
【余談】
筆者は決して添加物入りのテキーラ自体を批判するつもりはありません。テキーラにはそれぞれ個性があり、一つの個性の出し方であったり、味の安定という観点から、添加物を入れることには違和感はありません。
ただし添加物を多用しているブランドがまるで添加物を使っていないかのように表現したり、徐々にテキーラの品質を落とし、香料で安価に味をお化粧をして、マーケティングにばかり費用をかけているようなブランドには疑問があるということです。
また消費者が添加物入のテキーラを飲むことを批判する意図も当然ありません。それはブランドが無添加かどうかを公表していないこともそうですが、低価格なテキーラには添加物を使用したテキーラが多く、テキーラをコストを抑えて楽しむためには必然であるからです。
私自身も個人の嗜好としてはストレートだと無添加テキーラを飲むことが多いですが、日常的に炭酸割りで飲むときなどは添加物を使用したテキーラも多用しています。
添加物を入れいていないテキーラ
添加物が入ったテキーラについてここまで記載してきましたが、では添加物が入っていないテキーラはあるのでしょうか?もちろん添加物が入っていないテキーラもあります。
TMMによる無添加認証
テキーラが無添加であるかどうか、蒸留所が言っても消費者は事実か確認しようがないため、蒸留所が言ったことを認証してくれるシステムがあります。それがTequila Match Maker(TMM)によるAdditive-Free認証(無添加認証)です。

彼らは市販品の化学成分を確認するだけでなく、現地蒸留所の製造工程確認、蒸留所で出来上がったサンプルと市販品の比較。そのような過程を経てAdditive-Freeを確認するのです。
TMMが果たしている役割
TMMが果たした役割は大変大きいと感じています。Additive-Freeの認証を私が知らなかったときはAgave 100%はすべて無添加だと勘違いしていましたし、それが添加物が入ったテキーラが、テキーラ本来の味だと思っていました。
そのような誤解をしている消費者は多くいると思います。TMM認証により、テキーラのアガベや酵母によって織りなす味わいが、個人的には明らかになったと思います。
日本でも、より添加物が入っていないテキーラの価値について語られると良いなと思います。
TMM認証を受けていない無添加テキーラ
TMMの認証を受けていないものの、無添加テキーラという銘柄も一部では存在しています。筆者が多方面から確認した限りではドンナチョがこれに当たります。
無添加は何が良いのか
ここまで読んできて、では無添加のテキーラは何が良いのかということを説明したいと思います。
無添加のテキーラは多くの銘柄において、味と香りの多様性において優れているということです。添加物で味を誤魔化すことができないため、一つ一つの工程を生産者は手間をかけ、時間をかけ作るのです。
その結果、ブランドごとの個性があり、違いを感じることの面白さがあります。
また筆者がメキシコに訪れた際に見た無添加のテキーラ生産現場においては、それぞれの銘柄でできる努力をして、飲み手に届けようとする思いを感じられました。実際に無添加のテキーラ生産者においては、自分たちが添加物を使用していないことをプライドに思っている方も大変多かったです。


無添加はすべて正義か?
ただし、すべての無添加テキーラにおいて、価値があるかというと決してそんなこともないというのが私の意見です。一部の大手無添加ブランドにおいては、ブランディングのためだけに使っているのではないかと思われ、決して美味しいとは言えない銘柄もあるのです。そのためすべて無添加が正義であるとは私も言えません。
ただ多くの銘柄は前述のようなプライドを持って無添加にこだわり、水とアガベと酵母の織りなす味を消費者に届けようとする思いがあります。是非、無添加のテキーラでも特におすすめの銘柄を本記事下部に記載しております。そちらの銘柄をぜひゆっくりと飲んでみてください。
もしかしたら一度では気づかないかもしれませんが、ゆっくりと何度も飲むうちにその甘さなどの味・複雑な香りを気に入っていただけると思います。
CRT(テキーラ規制委員会)は無添加認証をしないのか
ここまで読まれた方からすると、CRTが添加物に関する認証をしたり、ラベルに表示できる新しいAdditive-Free というグレードを作成すれば良いのではないかと思うかもしれません。今後、そのようになるかもしれませんが、メキシコの蒸留所などで聞いた話ではそのようにしない理由は以下です。
- CRTの運営費用はテキーラ蒸留所が作った量に応じて拠出
- お金を多く支払っている=量を作っているのは、大手蒸留所であり、彼らの大半は添加物を加えている
- だから大手蒸留所が不利になる可能性のある無添加認証は行わない
参考:添加物に関する誤解
筆者自身も勘違いしていた標記の件について説明します。
ブランコへの添加物
以下のNOMを見ると4.36.1にブランコの定義が書かれているのですが、ここには”without additives”と記載されております。そのためブランコでは香料などを入れれないと勘違いしていました。また加えられるものも4.1でメローイングがあり、ここで加えるものとして香料が記載されていないため、だめなのかと勘違いしていました。


ただ前述の通り6.1.1.1でメキシコの食品に許される添加物なら加えることができるとして、前の章の記述を打ち消しているのです。なんで一つのルールの中で違うことを言っており、前段の文書を修正しないのか私も理解できないです。

フレーバードテキーラとテキーラリキュールに関する誤解について
フレーバード(Flavored Tequila)とテキーラリキュール(Tequila Liqueur)も誤解を招きやすい内容のため、併せて紹介します。私も一時期までしっかりと理解しておらず、同一のもので、呼び方が違うだけだと思っていました。
まずフレーバードテキーラと呼ばれるものは、テキーラの一種です。NOMの規定をテキーラとして正しく準拠している。ただし6.1.1.1(メキシコの法律に従って香料入れて良い規定)で香料を入れて、明らかに特定の香りが強い際には、その香料をラベルに記載しなさい。という項目に該当するものが11.1.cにあり、これに従ったものです。


一方、テキーラリキュールは12.1で規定されており、テキーラを原材料として使用した場合はNMX-V-49-2004に従うこととなっています。NMX-V-49-2004は何を規定しているかと言うと、テキーラを使用した”リキュール””Cream””Cocktails””Prepared alcoholic bevarage”を発売する場合の使用量と表記方法を記載しております。例えば”Tequila of Liquor”はテキーラの割合が51%以上で、”Tequila with Liquor”はテキーラの割合が25%以上でどちらもアルコール度数が13.5−55度の範囲にあることを表示することが規定されております。
ちなみにCreamは乳製品のクリームを指しているわけではなく、一定以上の糖分が含まれたリキュールのことを指しており、有名なものだとカシスリキュールの名称がクレーム・ド・カシスをイメージしていただけると良いかと思います。

筆者オススメの無添加テキーラ
筆者のサイトの中でも特におすすめの無添加テキーラは以下リンクに記載されたものです。

特におすすめの銘柄は以下をご覧ください。
編集後記
参考サイト
テキーラを学びたい方向け
今回はだいぶディープなテキーラの添加物について記載しましたが、もう少しライトなおすすめ銘柄だったり、基礎的な知識を以下では紹介しております。是非併せてご覧になってください。
筆者渾身のテキーラ解説動画
筆者のおすすめテキーラ

テキーラの基礎知識
テキーラの一歩進んだ知識
著者情報
- 著者名:テキーラダディ
- 本業:非アルコールの食品系業界のマーケティング部門
- 資格:日本テキーラ協会認定テキーラマエストロ(100期代)
- テキーラ関連の経歴:2009年に北海道にあるバーで本格的なテキーラに出会い目覚める。2023年にはハリスコ州内の蒸留所見学を果たす。テキーラ以外にもスコットランドのアイラ島など各地の蒸留所、国内のウィスキー蒸留所、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュ、国内の酒蔵、ブリュワリー、ワイナリーなど全世界のアルコール製造現場を巡る。
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