G4とはどういうブランドか
2022年末から日本にも初上陸を果たしたG4。現地メキシコや米国において大変人気なブランドです。G4の成り立ちなどをご紹介してまいります。
2023年1月に著者は現地に赴き、製造現場を見てきました。現地の声なども含め、お伝えいたします。
G4のオーナー
G4を作っている蒸留所はEl Pandillo(エル パンディジョ)です。El Pandillo蒸留所の創業者であり現当主はフェリペ カマレナ(Felipe J. Camarena)さんです。
テキーラの名門カマレナ一族
フェリペさんのファミリーネームを見て、テキーラ名門カマレナ家だと気づいた方は、もうテキーラ通です。すでに本サイトでは何度も登場してきたカマレナ家ですが、日本で有名なブランドだとTapatio(タパティオ)・8(オチョ)になります。Tapatioとオチョを作っているのは、フェリペさんの弟のカルロス・カマレナさんです。他にはCASA CAMARENAという蒸留所も親戚の方が運営されています。
カマレナ家のテキーラ造りの歴史は古く1800年代後半から、初代のFelipe Camarena氏がアガベ作り、テキーラ造りに従事していたようです。その後メキシコ革命の動乱で当初建設した蒸留所が壊されてしまったことで、現在Tapatioを作るLa Altena蒸留所が1936年から創業します。その後息子・娘がテキーラ作りを引き継ぎ、初代から数えると三代目のカルロス・カマレナ氏がLa Altenaではテキーラづくりをしております。
La Altenaから独立し、独自路線を貫く
フェリペさんは1957年に生まれ、La Altena蒸留所(ラ アルテニャ)でテキーラづくりのキャリアをスタートさせます。人生の大半はLa Altenaで働きます。その後2代目が亡くなられ、蒸留所をフェリペさんの弟のカルロス・カマレナ氏が継ぎます。彼は2007年に蒸留所建設を始め、2011年に蒸留所が完成します。
フェリペさんはマッドサイエンティスト(狂った科学者)という別名でも知られ、今までにない蒸留設備を作りました。La Altenaでの経験と自由な発想によりフェリペさんの独自のテキーラづくりを実現しているのではないかと思われます。
またフェリペさんの出身大学がハリスコ州の名門グアダラハラ大学で、土木工学(Civil engineering)を専攻として学んだようです。このときの経験も独特なテキーラ作りに活きているのかもしれません。
G4という名前
G4の読み方
G4は「ジー・フォー」(英語)もしくは「ヘ・クアトロ」(スペイン語)と読みます。日本では多くのテキーラファンがG4と呼びます。
G4の名前の由来
G4のGは「Generations」つまり世代という意味です。G4はカマレナ家3代目のフェリペさんだけでなく、息子のルイス(兄)とアラン(弟)も参加して作っています。今までの歴史も含めた4世代全てで作り上げたテキーラという意味でG4という名前にしたのです。
フェリペさんの一族への思い
フェリペさんは自分の一族への思いが大変強いです。蒸留所の入り口にはタオナの石(搾汁に使用されるもの)がオブジェとして飾られています。タオナを使用している蒸留所では使用しなくなったタオナの石を飾ることは多いですが、El Pandilloではタオナを使用するブランドが無いのです。この石の由来をフェリペさんに聞いたら、「お爺さんが当初建てたけどメキシコ革命で壊されてしまった蒸留所で、使う予定だったタオナの石です。お爺さんの気持ちを継いでテキーラを作っているから飾っている」という趣旨のことを仰っていました。
G4の作り方
前述の通りマッドサイエンティストという二つ名を持つフェリペさんが、独自の設備を作り、El Pandillo蒸留所で製造される銘柄がG4です。具体的な作り方を紹介してまいります。
G4の作り方
アガベづくり
まず原料のアガベは多くを自家農園からまかなっています。El Pandilloの回りには農園や牧場が広がっており、近隣の農園を中心に作っているそうです。El Pandilloはハリスコ州の中でもロスアルトス地方のアランダス近郊にあります、ロスアルトスは標高が高く、また赤土が特色です。
アガベの加熱による糖化
アガベはそのままでは発酵には使えないので、加熱して糖化させます。糖化させる際はマンポステリアと呼ばれる伝統的な煉瓦釜を使って加熱します。一般的にマンポステリアでは3日程度加熱に時間をかけますが、G4では24時間程度で加熱を終了させ、その後24時間冷ましてから取り出します。
写真をよく見るとアガベは全て半分にされていると思いますが、これはコゴージョ(芯)を取り除くためです。こちらでは全てコゴージョを除きます。
これは通常加熱するための蒸気の吹出口が上下どちらかにしか無いものの、ここのマンポステリアでは上下両方に付けることで、短時間でバランスよく加熱することができるためです。また完全に加熱された状態を100%とすると、75%程度までの加熱具合が彼らが求めている状態だそうです。
搾汁
特にEl Pandilloで特徴的な設備が搾汁です。一つはアガベを小さくカットするIgor(イゴール)とFrankenstein(フランケンシュタイン)と呼ばれる独自の搾汁設備です。
他の蒸留所でシュレッダーと呼ばれるアガベをカットする機械ですが、イゴールはアガベをカットするフェリペさん自らがデザインしたブレードを持ち、アガベをカットしていくそうです。通常のシュレッダーよりも効率よくカットすることができるそうです。
次にフランケンシュタインです。鉄製の円柱に杭をいくつも付け、これを動かすことで搾汁できるのです。次世代タオナとも称され、タオナよりも搾汁効率がよく、ローラーミルよりも繊維をイジメすぎないことで雑味が出すぎないのが特徴です。またフランケンシュタイン自体はローラーミルよりも設置コスト自体は安いそうです。(人手はフランケンシュタインのほうが必要)
発酵
El Pandilloには「筒型のステンレス」「直方体型のステンレス」「木桶」の三種類の発酵槽があります。現行のG4で使われるのは筒型と木桶になります。
上の写真を見たら、ステンレスなのか(?)と思われるかもしれません。上部にステンレスが見て取れると思いますが、これはステンレス発酵槽に断熱材と木を巻き付けているのです。前述の通り、El Pandilloがあるアランダスは標高が高く、テキーラ村とかに比べると冬は冷えるため、温度が下がるため断熱のためにそのような加工を行っています。一般的なG4はこの発酵槽を使います。
木桶に関しては、G4のMadera(マデラ)という銘柄を作るときに使用します。(通常ラインのG4でもロットに寄って一部木桶も入れて作っている物がある)カスカウィンの説明でも記載しましたが、木桶の発酵槽は清掃や樽の湿度管理などメンテナンスなどが難しい一方、味わいの複雑性は増します。
筆者も加水前の55度のMaderaを飲ませてもらいましたが、通常のG4の54度(108)以上の味わいの深さ、香りの豊かさを感じました。
最後にステンレスでも直方体型の発酵槽です。現在G4ではまだ発売になっていないですが、フランケンシュタインで搾汁後の繊維を発酵時に乗せて発酵させるバガス発酵をするためのものだそうです。今後G4-Fiber(ファイバー)はありえるようなことを現地のエンジニアさんが言っていたので、楽しみです。
そしてバガス発酵の最大のデメリットは発酵後の繊維の清掃が大変なことです。ただ写真奥側のモストムエルトを抜く際に、鉄格子で繊維を抑える事ができ、まとめて捨てられる。また直方体なので、清掃が比較的簡便になるということを企図してバガス発酵用としてはこの形にしたのだろうと思われます。(さすがはフェリペさん!!)
【発酵のための仕込み】
発酵は空気中の酵母で自然発酵させます。その発酵中の液(モスト・ヴィヴォ)を一度凍らせておきます。凍らせておくことで、酵母は休眠します。その凍らせておいたものと搾汁していたものを混ぜて、小さなステンレス発酵槽で酵母を増やします。これを各発酵槽に分けて、大量に搾汁した液と混ぜて、発酵を促します。
イチから自然発酵をさせると6日程度かかるそうですが、このやり方をすることで、3-4日で発酵を終わらせることができるそうです。
蒸留
二回の蒸留をG4では行います。一回目の蒸留は大きな一基の蒸留機で行いOridinario(オリディナリオ)と呼ばれる20-25度程度の蒸留液を作ります。
二回目の蒸留は小さな6個ある蒸留機で蒸留します。どちらの蒸留機も全て銅製という贅沢な作りになっています(ステンレス製よりも圧倒的に高価な上にメンテナンスが大変。)
【蒸留機の罠】
一部の蒸留所では蒸留機に下の写真の青い線の右側の機構を作っています。これは何かというと、液体を加熱して蒸気になった際に、温度と圧が高まってくると蒸気だけではなく、液体が後続の工程(赤いライン)に流れてしまいます。それを防ぐために、この機構を作ることで、液体はもう一度蒸留前の液体に落ちて、再度蒸留工程に戻ります。
加水
その後出来上がったテキーラを加水し、各銘柄の度数まで落とします。この水へのこだわりは大変面白いので後述します。
熟成
樽でこだわるポイントとしては、できるだけ樽感が出ないものをセレクトしているということです。
ロスアルトス自体が樽感を弱いものを選ぶ傾向にありますが、特にG4では樽感を強く出しすぎずに、テキーラを落ち着かせることにこだわりがあります。
一般的なエクストラアネホと比べて、下の写真のエクストラアネホが色が薄いのがわかりますでしょうか。
水へのこだわり
G4の水へのこだわりをご紹介します。多くの蒸留所は井戸水のみを使うケースが多いです。ただこの蒸留所には3つの水源(湧水、雨水、地下水)を活用できる仕組みがあります。ブランドによって水を使い分けており、G4では湧水と雨水を使用するそうです。(すべての水でフィルターを使用)
また使う水は一旦敷地外のプールに集められ、ここから蒸留所に持ち込む形になるのです。
雨水はなんと蒸留所の屋根に降ったものを集めて、加工することができるようになっています。ここにもフェリペさんのアイディアが詰まっているようです。また集めた雨は乾季でも使えるように地下に200,000リットルも貯められるタンクを作っているそうです。
G4のラインナップ
G4はアメリカでマニアには大人気の銘柄となっており、テキーラマッチメーカーという評価サイトでも大変高い評価を得ています。日本では2022年末からサニーカラージャパン社より販売開始しております。2023年3月現在入ってきている銘柄はブランコとシングルカスクのレポサドのみですが、今後徐々にラインナップを増やすことを考えているとのことで、現行の販売品を以下でご紹介します。
銘柄名 | 熟成 | 度数 | 値段 | 備考 |
G4 ブランコ | ブランコ | 40 | ¥5,900 | |
G4 ブランコ マデラ | ブランコ | 45 | 国内未発売 | 木桶100% |
G4 ブランコ108 | ブランコ | 54 | 国内未発売 | ハイプルーフ |
G4 レポサド | レポサド | 40 | 国内未発売 | |
G4 レポサド シングルカスク | レポサド | 40 | ¥7,500 | ロット10種類 |
G4 アネホ | アネホ | 40 | 国内未発売 | |
G4 エクストラアネホ | エクストラアネホ | 40 | 国内未発売 | |
G4 エクストラアネホ レゼルヴァエスペシャル | エクストラアネホ | 43 | 国内未発売 | 6年熟成、木箱入り |
G4の味わいとおすすめ飲み方
ブランコ
- レビュー
- 香り:アガベ(加熱)、バター、旨味・出汁感、ミネラル、ペッパー、ハーブ
香りは濃厚な甘さに複雑な様々な香りがします。旨味のようなものも感じることができ、人気なのも理解できます。 - 味わい:心地よい甘さに旨み、辛さ、苦さは少しだけ
口に入れると大変上品な甘さに旨味感のような物、辛さと苦さは - アフターノート:ちょっと青さとグレープフルーツ
アフターノートは心地よい香りにつつまれる感覚です。
- 香り:アガベ(加熱)、バター、旨味・出汁感、ミネラル、ペッパー、ハーブ
- おすすめの飲み方
◎ストレート、○ソーダ割り、△ロック - おすすめ度:☆☆☆☆+
アガベの香りを感じつつ、香りの複雑性があり、大変おすすめです。その上、値段が同レベルの味わいの中だと安い。大変おすすめです。
シングルカスク・レポサド(Lot1)
22年末から日本に入ってきたレポサドはシングルカスク(単一樽)です。ロットは1〜10種類あり、著者はLot1を購入しました。
- レビュー
- 香り:アガベ、バター、オーク、ミネラル、ブランコより薄めながらペッパーとハーブ感
ブランコよりももう少し落ち着いた香りの印象があります。オークの心地よさは強すぎずちょうどよいです。 - 味わい:心地よい豊かな甘さに旨味、ブランコよりも辛さが落ち着いて、苦さは変わらず弱め
甘さは大変豊かで、辛さはこのロットの問題もあるかもしれませんが弱めに感じます - アフターノート:心地よいアガベの香りに薄っすらとあるオーク感が心地よい
- 香り:アガベ、バター、オーク、ミネラル、ブランコより薄めながらペッパーとハーブ感
- おすすめの飲み方
◎ストレート、△ソーダ割り・ロック - おすすめ度:☆☆☆☆
ブランコに比べて落ち着いた感じはあるがしっかりと複雑性があり、樽感弱めのレポサドとしては最高の一本。
その他銘柄は発売後にレビュー予定
編集後記
今回G4が日本で気軽に買えるようになったことは、個人的に大変うれしいです。ここまで素晴らしいブランドが日本に入ってきたことは大変素晴らしいことであると思います。買いたい場合はぜひ輸入元のサニーカラージャパンのテキーラ販売部門であるテキーラムーチョさんで購入してください。
もっとテキーラを詳しくなりたい方向け
筆者渾身のテキーラ解説動画
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テキーラの基礎知識
テキーラの一歩進んだ知識
著者情報
- 著者名:テキーラダディ
- 本業:非アルコールの食品系業界のマーケティング部門
- 資格:日本テキーラ協会認定テキーラマエストロ(100期代)
- テキーラ関連の経歴:2009年に北海道にあるバーで本格的なテキーラに出会い目覚める。2023年にはハリスコ州内の蒸留所見学を果たす。テキーラ以外にもスコットランドのアイラ島など各地の蒸留所、国内のウィスキー蒸留所、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュ、国内の酒蔵、ブリュワリー、ワイナリーなど全世界のアルコール製造現場を巡る。
Twitterはおすすめ銘柄などを発信
筆者のインスタでは蒸留所の美しい風景などをアップしています。ぜひフォローしてください!
参照記事
以下の記事を一部参考にしております。
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