テキーラファンなら一度は飲んだことがあるドン・フリオ。そのお孫さんが2019年からアメリカでテキーラを発売しております。まだ日本未発売銘柄ではありますが、大変素晴らしい銘柄なので紹介させていただきます。
ドン・フリオの孫が作るLALO
ドン・フリオさんのお孫さんであるEduardo Lalo Gonzalez(エデュアルド・ラロ・ゴンザレス)さんがテキーラを作り始めた経緯、歴史をご紹介してまいります。
ドン・フリオとは
(ドン・フリオに詳しい方は次項へ)
ドン・フリオは、Julio González-Frausto Estrada(フリオ・ゴンザレス-フラウスト エストラダ)という方が作ったブランドとなります。フリオさんは7歳からテキーラ産業で働き始め、17歳で蒸留所経営を初めます。フリオさんが友人だけのパーティで振る舞ったテキーラが大変美味しく、話題を呼び、一般発売に行ったったのがドン・フリオです。(ドンは男性に使われる敬称)
極限まで皮を削り、辛味を減らし、濃厚な甘さが特徴のドン・フリオはメキシコはもとより、世界中で大人気で、日本でもTOP7の売上となっております(テキーラジャーナルの2020年のランキングより)
現在は世界規模のアルコールメーカーであるディアジオがブランド並びに蒸留所を経営しております。フリオさんの一族は現在は蒸留所経営には関わっておりません。
詳しくはドン・フリオのブランド紹介を御覧ください。
ドン・フリオさんとLALOさん
LALOとは、ドン・フリオさんがお孫さんにつけたニックネームです。彼は Eduardo “Lalo” Gonzálezという名前です。奇しくも彼が生まれた1989年はドン・フリオを一般に発売した年になります。
彼のお父さんも、お爺さんのドン・フリオさんと一緒にテキーラを当時作っており、その影響から彼自身テキーラ業界にはずっと親しみを感じており、2003年に家族がテキーラづくりから離れたあともずっとテキーラ業界を見てきたのです。
LALOを作った背景
お爺さんとお父さんの影響で、テキーラ業界に親しみを感じ、自身もテキーラ業界で働いていたLaloさんは、テキーラのトレンドを我が身で感じ、ずっと彼はやはりテキーラを自分の手で作りたいという気持ちになっていました。子供の頃からの友人でテキーラ業界のプロモーション/PRで働いていたデイビッドさんに一緒にテキーラを作らないかと声をかけます。そして二人はテキーラを小ロットで試作品を徐々に作っていきます。
この試作をしている期間に、Laloさんのお父さんが亡くなってしまったそうです。本当はお父さんと一緒にLALOを育てていきたかったのです。ただ彼は亡くなってしまったお父さんとの思い出とともに、このブランドを色々な人に届けることをより強く思ったのです。
テストをグアダラハラで続け、そして2019年にアメリカのオースティンでとうとう本格的な発売を開始するのでした。
作り方
LALOは昔ながらの作り方をしつつ、新しい作り方、考え方を取り入れたブランドです。ある意味いいとこ取りを上手くしたブランドとなります。以下では作り方の特徴をお伝えしていきます。
辛味を残したアガベの剥き方
ドン・フリオが世界中で受け入れられた一つの背景として、ロスアルトスの大きく育つアガベを、辛味成分が多いアガベの皮をギリギリまで剥き、辛味を最小限に抑えたことです。その結果、今までの辛味が残るテキーラとは一線を画し、彼らはプレミアムテキーラという地位を築く事ができたのです。現在はアガベの高騰もあり、以前よりも皮は残っているような味わいに感じますが、ドン・フリオのアイデンティティの一つは辛さが少ないことです。
ドン・フリオから引用した写真と先程のLaloさんとデイビッドさんの写真を見比べたら、緑色の皮の残り方が違うことがわかるかと思います。LALOは同じくロスアルトスのアガベを使うものの、一定程度皮を残し、辛味も感じる昔ながらのアガベのカットにこだわっているのです。当然皮には辛味以外にも様々な味の要素があり、LALOの複雑な味わいの根幹の一つになっているのです。
シャンパーニュ酵母
テキーラの昔ながらの作り方としては、蒸留所についた酵母などを使用します。あまり他の酵母を使用するブランドは多くありません。そのような中、シャンパーニュ酵母を使用してLaloさんたちが試作してみたところ、大変フルーティで美味しかったことからこの酵母の使用を決めたそうです。
日本に入ってきているテキーラだと、VolcanというLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)が作っているテキーラがシャンパーニュ酵母を使用しております。モエ・シャンドンやヴーヴ・クリコを持っているLVMHらしい商品作りだなと思います。
無添加・樽熟成なし
LALOの一番の特徴は、無添加で樽熟成を行わないことにこだわりを持っていることです。このようにしている理由として、Laloさんはインタビューで”なぜなら私達はアガベが収穫されるまで7年も待っているのに、香料や樽の香りでアガベの香りをマスクしてしまうのはフェアではない”と語っております。
樽熟成をしたテキーラの良さもありますし、添加物を使用することが一概に悪いことだとも言い切れないです。ただLaloさんが語るこの考え方は、テキーラの最大の要素であるアガベに対する真摯な考え方として、大変素敵な考え方だなと思います。
LALOの面白さ
ドン・フリオとLALOのそれぞれの特徴と違い
先述したとおり、ドン・フリオは皮をギリギリまで向くことで辛さを抑えて人気を得ました。一方、LALOは皮を一定程度残し、スパイシーさを加えております。Laloさん自身もLALOの香りのエッセンスとして、胡椒があると言っておりますが、これはアガベの皮の香りから来るもんだと思われます。
またドン・フリオは現在はブランコもありますが、発売した当初はレポサドのみでした。これもドン・フリオが人気となった一つの要素です。当時はバジェス地方の銘柄が主流で、バジェスは新樽を使うことが多く、樽由来のバニラ系の香りがしっかりと感じられます。一方、ドン・フリオはバーボンの中古樽を使用し、穏やかな樽感となります。一方のLALOはブランコのみにこだわりを持っています。
また酵母もドン・フリオはどのような酵母を使用しているか明示はしておりませんが、少なくともシャンパーニュ酵母は使用していないという点においても異なっています。
一方、共通点としてはドン・フリオがロスアルトスのアガベを使用しているように、LALOも自身が生まれ育ったロスアルトス地方のアガベを使用しています。またマンポステラと呼ばれる煉瓦製の釜でアガベを熱することも共通点としてあげられます。
このように祖父であるドン・フリオさんの思いを引き継ぎつつ、LALOの違いは出ています。ただお爺さんやお父さんが通った道をたどるのではなく、自身がテキーラ業界にいたこともあり、独自性もしっかりと出している。これがLALOの面白さであり、魅力でもあると思います。
地域社会へのこだわり
今の時代、サステナビリティやSDGsといった言葉が溢れております。またそのメッセージはマーケティングのために使用しているように感じることが多く感じられるのではないでしょうか。どうようにLALOは”一緒に働いてLALOを作っている人たちに責任を持つ”といったメッセージを出しています。
正直、私はLALも他の多くのブランドと同様にマーケティングのメッセージとして、このようなことを言っているんだろうなと思いました。ただインタビューを聞いてこれは大変失礼な誤解だと考え直しました。それは彼が語っていたこととして”祖父であるドン・フリオは7歳からテキーラ業界で働いており、すべてのLALOを作るために働いてくれている人は、祖父と同様に感じる。”(“When my grandfather started, he was literally a peasant. I see my grandfather in every single person involved right now.”The Dallas Morning NEWSより出典/筆者訳 )
またボトルにも地域へのこだわりを感じることができ、ボトルネックの帯の青と黄色はLALOが作られるハリスコ州の旗の色をイメージしているそうです。またラベルに記載された協会のようなマークはメキシコの各町の中心にある教会をイメージして作っているのです。
味の特徴・おすすめの飲み方
味の特徴
香り:加熱されたアガベ、ハーブ、ミネラル感、フルーツ(ライム・白ぶどう)、胡椒
味わい:自然な甘さに辛さが続く
アフターノート:ミネラルとフルーツが柔らかく残る
おすすめ度:★★★★++
香り・味が複雑に絡み合うというタイプではないが、一つ一つの個性が立っている印象。そのなかで、おおよそアメリカの売価で50$は十分におすすめできる価格。
おすすめの飲み方
基本的にはストレートで飲むことをおすすめします。ただしソーダやロックでも、味わいがしっかりとしているので、味が腰折れせずに楽しめます。
カクテルはまだ十分に試してできていないので、試してから紹介いたします。
定性情報
NOM:1468
蒸留所:Grupo Tequilero Mexico, S.A. de C.V.
エリア
蒸留所:ハリスコ州ロスアルトス地方
アガベ産地:ハリスコ州ロスアルトス地方
加熱方法:マンポステラ(煉瓦釜)
搾汁方法:ローラーミル
加水:地下水
発酵槽:ステンレス製発酵槽
蒸留回数:2回
蒸留器:銅製蒸留器
熟成樽:なし
熟成期間:なし
度数:40%
相場:50$
(上記はTequila match makerと製造元HPなどを参考にして作成)
編集後記
個人的な将来の目標
LALOの味わい、ブランドが纏う雰囲気、ストーリーが大変素晴らしく、将来日本に輸入したいなぁ。と、今回改めて色々と調べ、また飲んでみて思いました。いつ実現できるかわからないので、それまでは興味ある方は個人輸入するか、一部日本でもアメリカから仕入れているお店・イベント(2022年時点:大井町ガティートさん、テキーラ道場)で是非試してみてください。
個人輸入にトライしてみようと思った方はぜひ以下のテキーラの個人輸入方法を御覧ください。
参考サイト
テキーラをもっと知りたくなかった方用リンク集
テキーラ自体をもっと知って、楽しく飲みたいという方は、以下リンクをご参考にしてください。。
筆者渾身のテキーラ解説動画
筆者のおすすめテキーラ
テキーラの基礎知識
テキーラの一歩進んだ知識
著者情報
- 著者名:テキーラダディ
- 本業:非アルコールの食品系業界のマーケティング部門
- 資格:日本テキーラ協会認定テキーラマエストロ(100期代)
- テキーラ関連の経歴:2009年に北海道にあるバーで本格的なテキーラに出会い目覚める。2023年にはハリスコ州内の蒸留所見学を果たす。テキーラ以外にもスコットランドのアイラ島など各地の蒸留所、国内のウィスキー蒸留所、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュ、国内の酒蔵、ブリュワリー、ワイナリーなど全世界のアルコール製造現場を巡る。
Twitterはおすすめ銘柄などを発信
筆者のインスタでは蒸留所の美しい風景などをアップしています。ぜひフォローしてください!
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